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インサイド



「明日へのチケット」

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監督:エルマンノ・オルミ 、アッバス・キアロスタミ 、ケン・ローチ
出演:カルロ・デッレ・ピアーネ 、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ 、シルヴァーナ・ドゥ・サンティス 、フィリッポ・トロジャーノ 、マーティン・コムストン 、ウィリアム・ルアン

3人の監督からなる、3つのドラマ。
1番目のドラマが上品で、ちょっとびっくり。同じ場面を別の視点から撮っているのは、これがもう一つの物語りの始まり(移民の家族のストーリー)を意味しているからなのでしょうか。
ヴァレリア・ブルーニ=テデスキとカルロ・デッレ・ピアーネとのやり取りがものすごく色っぽくてドキドキします。時折挟まれる老人の過去の話、そしてピアノの音。3本の中で、全ての乗客が一番謎めいて見えました。電車の中、相手が誰だか分からないことから来る、独特の緊張感。
目の前に座った軍人という現実、そして食堂車の隔てられたドアの外で座り込む移民という現実を目にして、老いた男は夢ではなく行動することを知る。

2番目のオバサン(苦笑)がすごい迫力。…だけどいますよね、こういうオバサン…。
この章は、女性がたくさん出てくるせいか、その使い方も上手。年老いた女と、若い女、少女。年老いた女は、自分の若い従僕が若い女達に視線を送ると、それをすぐに邪魔しにかかる。それはあからさまな嫉妬で、年老いた女は青年に歪な好意を抱いているんですよね。青年への過剰な要求も、それの裏返しかもしれないですけど。
…これが自分の死んだ夫のための旅なんだから、なんとなく苦笑してしまう。
そして、いざ青年に見捨てられると、女はなりふり構わず彼を探しにいく。彼女が頼れるのは、結局彼しかいない。だけど青年は若く、昔のカノジョの近況なんかを聞いた後では、年老いた女に構っている時間はないのだ。
印象に残ったのは、赤い服の女性がゆっくり歩いてくるシーン。ここが一番、若い女と年老いた女の比較を感じたなぁ…。

そして3番目。…私にとっては、この章が一番身近でした…。
うわぁ、セルティックサポーターだ。
『ベッカム』に声をかけるのは当然の反応です。その他、一生懸命貯めたお金を革靴に使ったり、足が臭かったり、サンドイッチを移民の家族にあげちゃったり、なんだかとっても場当たり的。念願のCLを見れるもんだから、ものすごくハイテンション。あげくにチケットをなくしちゃうし。…サッカーファンってこんなもんですよ…。あぁぁ、本当によく分かる。
それでも、そんな場当たり的な若者達でも、いざアルバニア系移民家族の悲劇を目の前にして、動けなくなる。単純にサッカーを見たいがために、電車に乗っていたはずだったのに。移民の子供がチケットを盗んだのだとカッカしていた若者達も、「家族が離れ離れになる」と泣き続ける女性の前では、項垂れるしかない(とはいっても、盗みは盗みですが)。単純なだけで、悪意はない若者3人。結局、彼らは移民の家族に一枚のチケットを譲る事を選択する。

全編電車の中なのですが、画面の揺れがないので安心して見れました(苦笑)。
また、電車の中に詰め込まれた人々の目線が印象的。主人公を咎めるような目で周囲が固まることもあれば、主人公の視線を見守る目線。彼らの一挙一動に注目している目線の数々が痛かったり、笑えたり。乗客達もまさに多種多様。
扱っている題材は割りと重いはずなのですが、スコットランド人達のおかげで重くならずに済みました。最後のロマニスタとのやり取りは見てて微笑ましかった…。サッカー好きな人って、あんなもんですね。

それにしても、3人の監督が登場人物達をリンクさせてくれて、一つの映画としてくれているのにはちょっとした感動。贅沢なディナーを食べてるみたいだ。3人の監督がそれぞれ、映画自体の醸し出す雰囲気が違っていて、その比較が面白かったり。
いいですね、こういうの。
by azuki-m | 2007-02-06 22:36 | ■映画感想文index
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「私は、断固たる楽天主義者なのです」

by azuki-m