インサイド



「ピアニスト」

f0033713_21172599.jpg監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール、ブノワ・マジメル、アニー・ジラルド

 一言で言えば、傑作。
 今のところ、私の中ではベスト20には入るであろう作品。



乱暴に要約したストーリー:
エリカ(イザベル・ユペール)はウィーンの音楽大学院教授。父親は入院中で、母親と二人暮らし。母親は彼女にピアノ以外の全てを禁止したが、彼女は自分が一流の音楽家でないことを知っている。性への歪んだ妄想を膨らませるエリカだったが、彼女の前に若く美しいワルター(ブノワ・マジメル)が現れる。彼はエリカが勤める音楽学校の学生となり、彼女への想いを吐露するが…。


 最初の鑑賞時は、ワルターの気持ちも多少分かるような気がしたのですが(「私を殴って、縛ってください」なんていわれたら、誰だって引くよね、とか)、2回目はもう完全にエリカ視点(苦笑)。痛くて痛くて。
 彼女は、(父親を含めた)男性に愛されたことがない(性的な面だけでなく、精神的な面でも)。どちらかといえば、彼女は父親不在の家庭で、母親から「父親」役と「子供」役の二つを求められ(エリカは母親のエスコート役をしたり、彼女の寝室で一緒に寝たり、また生活費は全てエリカが稼いだもの。かと思えば、母親は彼女の鞄の中身をチェックし、上着を着せ掛ける)、彼女自身、自分の本来の場所を模索していたように思います(夜のシーン)。
 
 だから、エリカはいきなり飛び込んできたワルターを最初は拒否し、そして受け入れていく。
 「私を殴って、縛って」と自分に対するSMプレイを詳細に描いた手紙は、それまで異性との交渉を母親に絶たれていたための、セックスへの歪んだ妄想の産物でしかない。確かに、性や性器に対する妄想はかなりのものですが、彼女がSMプレイを本当に望んでいたわけではありません。(だから、いざその場面になったとき、「ぶたないで」と言うわけだし)
 単に、彼女はワルターを試しているように思えました。この男はどこまで自分を愛してくれるのか、どこまで許してくれるのか。
 しかし、エリカの真剣な問いかけも、若いワルターには自分を焦らしているようにしか思えない。その裏にあるものを、彼は考えようともしない。
 
 エリカの中に土足で踏み込んでおきながら、彼はあっさりと彼女を踏み越えていく。彼にとって、結局のところ、エリカは「彼の人生における階段の途中」でしかないのかもしれません。
ひたすらに残酷です。そしてそれを冷徹に見つめる、ハネケの視線。最後のワルターの登場シーン(演奏会場にて)は、あまりにさらっとしすぎていて、最初は誰なのか分かりませんでした。
エリカは去ってゆくワルターを見やり、顔を歪ませ、持っていたナイフを胸に突き立てる。死ぬことはできない。が、彼女の目は外へ向かう扉を見つめている。そして彼女はピアノも母親も捨てて、会場を後にするのです。

 「年上の女が若い男に入れ込んだ挙句、ボロ雑巾みたく捨てられる」的なストーリーは数多くありますが、ここまで徹底して客観的に撮った映画があっただろうか…。涙が出るわけでもなく、ひたすら痛い映画。しかも、その痛みは、ハネケ風に言うなら、「面と向き合いたくないものと対峙」させられた時の痛みでしょうか。
 しかしわずかな希望といえば、エリカが前に歩き出したことでしょうか。最後の、会場から出て通りを歩いていくシーンはものすごくあっさりとしているのですが、それが逆に彼女の強さを感じさせました。取り乱して足をもつれさせることもなく。やや早足で、いつも通り、彼女はしっかりと、堂々と歩いていました。


 何から言っていいのか分からないくらい、素晴らしい映画なのですが…。
 まず、役者の演技がとにかく素晴らしい。
 ハネケ独特の手法だと思うのですが、役者の顔をアップにしたり、彼らの表情を同じカットでずっと撮り続けたりと、まるで内面を抉るような描写が残酷で、すさまじい。そして、それに耐えうる彼らの演技、その表情。ワルターのピアノが鳴っている間の、エリカ(イザベル・ユペール)の落ち着かない表情、絶えず動く眼差し。そのため、見ているこちらとしては二重に痛いのです。役者が上手ければ上手いほど、感情はよりリアルにこちらに伝わってきます。
 
 作中、イザベル・ユペールは全くのノーメイクで撮影に臨んだそうなのですが、素顔がこんなにのっぺりしていたとは知りませんでした(汗)。本当にノーメイク??ブサイクメイクをしてるんじゃなくて?
 また、ブノワ・マジメルも、「王は踊る」くらいしか知らなかったのですが、こんなに上手いとは知りませんでした。(ついでに、こんなにいい男だとも知らなかった)。ハネケの撮り方が上手いんでしょうか?(笑)

 その他、よく分かりませんが、この作品、いろんな伏線やキーポイントがあるような気がします。いくつもの小道具があって、それを読み解く作業も楽しそうです。シューベルトの音楽の解釈って、どうなんでしょう?クラシックは全く詳しくないもので、その辺がちょっとよく分からない。

 原作はオーストリアのノーベル文学賞受賞作家、エルフリーデ・イェリネクの同名の小説。この作品は当初ポルノだなんだと騒がれ、2004年のノーベル文学賞受賞後も、審査員の一人が「あんなポルノ作家に賞を与えるなんて」(イェリネクのその他の作品でも、やはり「ポルノ」と批判されているものがあります)と、審査員を辞任するなど、ニュースに事欠きません。イェリネク自身は、「この作品は、ポルノ以外の全てです」と言っているのですが。私も、この作品を「ポルノ」と括ってしまうのは難しいんじゃないかな、と思います。読んでいる方を息苦しくさせるような緻密な文体は、圧巻です。こちらもオススメ。(ただし、映画とは話の筋がかなり違います。この映画も、あの原作を上手く再構築したなぁ…)


☆2001年カンヌ国際映画祭グランプリ、最優秀主演女優賞、最優秀主演男優賞受賞
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by azuki-m | 2006-02-19 21:22 | ■映画感想文index
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