インサイド



「ジャーヘッド」

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監督:サム・メンデス
脚本:ウィリアム・D・ブロイルズ・Jr
音楽:トーマス・ニューマン
出演:ジェイク・ギレンホール、ピーター・サースガード、ルーカス・ブラック、ジェイミー・フォックス

 見ようかどうか迷っていたのですが、トレイラーにやられて見に行くことになった作品。
 正直期待をしていなかったのですが、ここまでいいとは思わなかった…!
 この映画で、監督は「戦争」自体について、いいとも悪いとも判断をしていません。ただ、「戦争とはこうしたものだ」と淡々と描き、それは最後まで変わりません。作中、特に大きな盛り上がりがあるわけではなく、冷静に映像を撮っていくのです。
 これは、「戦争」に行った若者の物語ですが、今までの戦争映画とは明らかに一線を隔しています。「現実の戦争」とは何か。私達が見ていた「戦争」とはなんだったのか。そして、「戦争」はいったい誰のものか。
 ここに出てくるのは、銃を一発も撃たない戦争。前線にいる兵士たちの緊張と怠惰、そして焦燥が、痛いほど伝わってきます。

乱暴に要約したストーリー:
父と同じ道を歩むため、海軍に志願したアンソニー・スオフォード(ジェイク・ギレンホール)。狙撃手としての厳しい訓練を受けた後、彼はイラクに派兵される。イラクのクウェート侵攻をきっかけに、湾岸戦争の始まったのだ。イラクに苦しめられるクウェートを解放することを夢見るスオフォード。しかし、現実の戦争は、彼が思っていたものとは全く違っていた…。

 湾岸戦争が起こった時、私は意味も分からずぼんやりとテレビを眺めていた記憶があるのですが、テレビに映る映像が、なんだか映画みたいだと思った記憶があります。つまり、私はテレビで見た映像を、現実のものとは捉えていなかったというわけで。
テレビで見る戦争と、そこに立った者が経験する戦争。二つの間にははっきりとした違いがあり、前者の時間は常に動いているが、後者の時間は停滞している。

「外の時間は常に動いているんだ」

 カノジョに他の男ができたと落ち込むスオフォードに、同僚が投げつける言葉です。国のために戦っていても、自分達は外の世界から取り残されていく。テレビで放送はされていても、そこに映るのは現実とは程遠い、都合のいいように選択された映像でしかなく、彼ら自身の「戦争」で手一杯な人々は、遠いイラクの事を忘れていく。

 そんな場所に派遣されたスオフォードは、取り残されていくことに強い苛立ちを感じます。派兵はされたものの、アメリカの盟友サウジの油田を守るため、彼らは砂漠の真ん中で待機し、「想像の地雷原を進み、想像の敵を撃つ」日々を繰り返すのです。
 その中で高まっていく、戦争への期待と、銃を撃ちたい、人を殺したいという欲求。「銃なくして、自分はいない」。彼らにとって、銃は自分の半身に近い。そして、狙撃手としての辛い訓練を受け、ここに送り出された、自身の存在意義から来るものだとは思いますが、それを彼らはどこまで本気で受け止めていたのか。そして、「戦争」の意味を、彼らはどこまで分かっていたのか。
 砂漠での長い待機の後、彼らはようやく「戦争」に参加することになりますが、それを聞かされた時の歓声の場面から、彼らはすぐに「戦場」へと放り出されます。爆撃の中、塹壕にも入らず、突っ立ったままのスオフォード。この時の、スオフォード演じるジェイク・ギレンホールの顔が、私はすごく好きです。
 青空の中で降り注ぐ爆撃と悲鳴、飛び散る砂。現実の戦争を目の当たりにし、彼はこれが「戦争」なのだということを知るのです。けれど、彼はそれをありのまま受け入れるしかない。

 そして、戦争は爆撃が降り注ぐだけの、単調なものでもないのです。
 油田が燃えるシーンなどは、不謹慎ではあるのですが、非常に幻想的なシーンで、これも戦争の一部であることが分かります。サイクス(ジェイミー・フォックス)はこの風景を見たいがため、この仕事をしているのだと言います。本当に不謹慎ではありますが、残酷で、美しい場面です。それなのに、その下では油田が燃え、油の雨が降り、ジャーヘッド達の心は軋み、歪んでいく。そして砂の下には、イラク人達の黒こげの死体が埋まっている。

 たくさんの人間が死んでも、「戦争」の終わりはあっけないものです。
 突如としてその終結を告げられたスオフォードは呟きます。「一発も撃たなかった」。
 帰国し、興奮して出迎える人々の中で、彼らジャーヘッドは冷めています。
 空しさが残るのに、それでもまだ彼らは銃の感触を覚えている。「戦争」の記憶は簡単に消えるものではなく、ある種の懐かしさすら伴って、彼はこう言うのです。

「僕らは今も、砂漠にいる」



 映画好きとかいっといて何ですが、サム・メンデス監督の映画はこれが初見。「あんまり私向きじゃないかも・・・」といってダラダラ後回しにしていたのです(汗)。しかし、この話はどれもバランス良く、綺麗にまとまっていると思います。原作は本屋でちらっと見ただけですが、よくぞここまで再構築したといった感じでしょうか。
 また、作中に流れる音楽がカッコイイ。トーマス・ニューマンさん…ノーチェックだったなぁ。その他、湾岸戦争時代の曲とかが流れているようなのですが、そのどれもが場面にあっていておもしろい。特に締めくくりのカニエ・ウエストの「ジーザス・ウォークス」が圧巻。

 私の後ろに座っていたお客さんは、「今までとちょっと違う映画だよね…」と呟いていました。まさにその通り。どこがどう違うのか、うまく説明はできませんが、私もそんな感じです。一種の青春映画ではあるのですが、そう言ってしまうには全体に漂う皮肉っぽさが邪魔をする。苦くも甘くもない。淡々とした青春映画…かな。


 蛇足ですが。この映画、笑う場面じゃないんですが、どうにも笑える場面が多々あって・・・。映画冒頭のスオフォードの訓練場面とか(あんな事も大声で言わなあかんのかとか)、男同士の会話とか行動の際どさとか・・(トイレ入ってる時にドアをあけるなよとか、汚物処理って大変だなぁとか、そのサンタクロースの帽子はどこから調達してきたんだとか、っていうかどこにつけてるんだとか)。映画館で一人、笑いをこらえるのに必死でした。…あんなに笑ってたのは、もしかして私だけでしょうか。おかしいなぁ…(汗)
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by azuki-m | 2006-02-16 23:49 | ■映画感想文index
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