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インサイド



「バベル」

「バベル」_f0033713_0303367.jpg監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ブラッド・ピット 、ケイト・ブランシェット 、ガエル・ガルシア・ベルナル 、役所広司 、菊地凛子 、二階堂智
 
『人は神に近づこうとし、神の怒りに触れ、共通の言葉を失った。』

 「バベル」とは、聖書に出てくる有名なお話ですね。
 人間の傲慢さの象徴とも言える挿話です。
 イニャリトゥ監督は、この「バベル」とは「コミュニケーションの喪失と、それがもたらす悲劇」として捉えているようですが。

 さて、この映画、日本人が助演女優アカデミー賞にノミネートされたことで、随分話題になりました。まぁ、多分とらないだろうなぁとは思っていましたが、賞のおかげで映画がかなり宣伝されましたねー。
 でも、別にアカデミー賞助演女優にノミネートされたからではなく、彼女の存在は印象的でした。
 声すら失った人間の、葛藤と悲しみ。
 話せないチエコは、だから自分の体でぶつかっていくしかないんですよね。
 だけど周囲はそんな彼女を受け止めることはできない。
「化け物を見せてやる」
 っていったのは、普通のコミュニケーションをとる人間の中で、最も原始的な行動をとる人間がいきなり現れたら、そりゃ化け物(異端)でしかないわけで。
 そういや、「人と会話をしなければ、それは人間ではない」って言ってたのはソクーロフでしたね。人と会話をしない(コミュニケーションを取れない)人間は、「人間」ではない、というか、そこまで極論ではないけれど、異質であることに変わりはないんですよね。男の人をいくら誘っても、彼らは彼女が求めるものを与えてくれようとはしない。
 だから最後、若い刑事と父親が彼女を受け止めたのは、この映画における大きな希望ですよね。このラストのおかげで、バベルの塔の崩壊後、共通の言葉を失った人間が、それでもみんなで生きてきた、その理由を見た気がします。
 でもどうでもいいですが、クラブのシーン…。出てきた瞬間、「これか!」と思いました。ニュースとかで、「一部の観客が気分が悪くなったシーンというのは!!」…確かにちょっと眩暈がしました。直視できませんでした…。光によって一場面一場面を切り離し、スローモーションをかけてるんですが、…点灯が長い(汗)

 そして、ブラピはちょっと意外でした。
 こんなオジサン役もするんだ…。
 彼のストーリーも、結構印象的。
 妻が突然撃たれ、テロを不安がるアメリカ人観光客たちの、ヒステリックな苛立ち。「いかにもアメリカ人らしい」身勝手さで、撃たれた夫婦を放って、バスで先に進もうとする。9.11(あの世界貿易センターのビルこそが、「バベルの塔」を象徴しているのですかね)の事件以来、彼らはテロに対して過敏になっています。
 そして結局、彼らは夫婦を村に置いて先に進んでしまう。残された夫婦は、皮肉にもそのおかげで互いの共通の言葉を取り戻すけれど、このときケイトが夫に「トイレに行きたい」って言ったのにはちょっと笑えるような、嬉しいような。
 人間、「生きてる」って実感するのは、ご飯食べたりとか、トイレ行っているときなのかも。一番本能的な行動ですもんね。

 しかし、ここに登場してくる人物は、ホント、どの人もどの人もワケありですね。
 互いの時間が少しずつ絡み合い、自分の行動が少しずつ他者に影響を及ぼしていく。絡み合う物語と、その結末。…限られた時間の中で、その登場人物を的確に表現してくれた、役者さんたちはグッジョブでした。
 しかし、菊池さん。やっぱり、ちょっと、女子高生をやるのはしんどかったですね(汗)。肌の具合とかが、やっぱり20代なんですよね…。でも、よく頑張ってました。

 全体的に、ものすごく感動するとか、感情移入するとか、そういう映画ではないのですが、見た後、じっくり考え込みたい映画ではあります。なので、「バベル」って、いい題名ですよね。この題名の意味だけでも、考えこんでしまう。




ちょっとした蛇足。
ファニング妹だ…。なんか似てるなー、似てるなー、と思って見ていたのですが、本当に妹だったとは。
しかし、この妹、なんだか怖そうに見えたのは私だけでしょうか…。

更に蛇足。
私的にものすごく嬉しかったのは、小木茂光さんが歯科医役で出ていることでした…。あの声大好き。
by azuki-m | 2007-05-18 00:30 | ■映画感想文index
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「私は、断固たる楽天主義者なのです」

by azuki-m