インサイド



「父、帰る」

f0033713_0212227.jpg監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
脚本:ウラジーミル・モイセエンコ 、アレクサンドル・ノヴォトツキー
音楽:アンドレイ・デルガチョフ
出演:イワン・ドブロヌラヴォフ 、ウラジーミル・ガーリン 、コンスタンチン・ラヴロネンコ 、ナタリヤ・ヴドヴィナ

 こちらも「父と子」の物語。
 以前見たのですが、ソクーロフの作品に触発されて今更感想文なんかを。
 これもロシアの監督ですね。ロシアにおける「父と子」について少し考えさせられます。
 ヴェネチア映画祭にて、金獅子賞を受賞。
 混じりけがない、素のままの映像というか。非常に静かで、透明な映像。


 「なんで今更帰ってきたんだ」

 母親と、兄と、祖母。それで完結していたイワンの世界に、不意に父親が帰ってくる。
 突如帰ってきた父親に、家族は戸惑いを隠せない。
 兄アンドレイは父を慕うものの、弟イワンはそんな父や兄に反発を覚えてしまう。そんな父は、息子たちと一緒に旅行に出かけることを提案します。
 しかし、母親に育てられた兄弟には、男親の厳しさは分かりません。兄は厳しい父親を慕いますが、弟は幾度となく父とぶつかります。ちょっとした諍いが原因で、雨の中、父親に放り出された弟は、とうとう父親に向かって言い放つのです。
 「なんで今更帰ってきたんだ」
 「おまえがいなくても、うまくやっていたのに」
 それに対し、父親は珍しく口ごもってしまいます。
 彼が父親との距離を掴みかねていたように、父親もまた、久しぶりに出会う息子との距離を測りかねていたように思います。
 何も言わない父親に対し、兄弟の中に『彼は、本当は何者なのか』という疑問が芽生えはじめますが、旅は続き、彼らはやがてとある島に辿り着きますが…。



 父親の存在がキリストに見立てられているのか、マンテーニャの「死せるキリスト」の構図やら、「最後の晩餐」の構図やらが出てくるし、いたるところで「死」を連想するものが出てきますので、なんとなく最後は悲劇で終わりそうだと思ったのですが、やはりその通りでした。
 「僕だってやれる」
 高いところから飛び込めないことをコンプレックスにしている弟は、自分が弱虫ではないことを照明するために、塔の上から飛び降りようとする。それを止めさせようとする兄と、父親。
 最後の最後で息子の名前を呼ぶ父と、同じく最後の最後で父親のことを「パーパ!」と呼ぶ息子の姿がものすごく寂しい。最後の展開がかなり速いのですが、思わず号泣…(苦笑)



 しかし、「父」は、本当は何者だったのか。
 帰った父親に対し、母親と祖母は何も言いません。しかし、兄弟の母親は、久しぶりに帰った夫とベッドに入ることに対し、戸惑いを見せます。しかし、彼女が覚悟を決めてベッドに入ったとしても、夫は隣に横たわるだけです。横たわりながら、閉じることのない妻の目が少し悲しい。
また、旅行中、彼はずっとどこかに電話をしているし、彼がなぜ息子たちを旅行に誘ったのかも分からない。何も告げられることのないまま、旅は唐突に終わりを迎えてしまう。
 そして、彼が掘り出した箱の中身はいったいなんだったんでしょう。監督はこれに対しては「ヴェネチア映画祭の金獅子像だよ」と言っていましたが、箱の中身は各自ご想像ください、とのことでしょうね。(同じ質問が続いたのか、かなりめんどくさそうでしたね:苦笑)
 最後のモノクロームの写真は全て兄弟とその母親のもので、父親が写っているものは全くと言っていいほどない。これは、父親が、家を留守にしていた間、持っていたものだったのでしょうか。彼はそうしたやり方で、自分の家族を思っていたのかもしれません。
 それはともかく、やり方はどうであれ、父親は「父」を知らなかった彼ら二人を導く神であり、「生きること」を教えた存在だったのでしょう。

 そういえば、偶然かもしれませんが、ロシアというのは他のヨーロッパに比べ、父親の権力が強いように思います。そこに出てくる父親は子供にとっての神ですらあるというか。

 「ファザー、サン」とは逆に、この映画は父が息子たちの元へと帰り、そして結局行ってしまう(死ぬ)という映画。「ファザー、サン」の場合はキリスト教における「放蕩息子の帰還」を引っ張って、「子が父の元を離れる罪」をさり気に描いているような気もするんですが、こちらの「父、帰る」は逆に子による父殺しを描いてるのかしら。息子はその成長のために、父を殺されなければならない、ということなんでしょうか。(キリスト教における「父と子」というものは、私も全然詳しくはありませんが。)


 そして、この映画、写真を見ても分かると思うんですが、自然の風景が美しいんですよね。街のシーンなんかもそうなんですが、背景と人物の配置が美しい。周囲が空いているというか、広がりのある映像。特に島の映像は、一面の海と、草原と、透明な青い空。そこを通る風の清清しさ。

 また、子役の二人が素晴らしい。しかし、兄アンドレイを演じたウラジーミル・ガーリンですが、ヴェネチア映画祭の2ヶ月前に、ロケ地でもあった湖で溺死という、悲しい出来事がありました。これから期待の若手だと思ったのですが…。残念です。


ソクーロフ作品よりはかなり見やすいと思う、この作品。
ロシア映画が初めての方なんかにはオススメです。
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by azuki-m | 2006-06-29 00:23 | ■映画感想文index
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