インサイド



「カラヴァッジオ」

f0033713_1121931.jpg監督:デレク・ジャーマン
脚本:デレク・ジャーマン
出演:ナイジェル・テリー 、ショーン・ビーン 、デクスター・フレッチャー 、スペンサー・レイ 、ティルダ・スウィントン

 イタリア・ルネッサンス期に活躍した、ミケランジェロ・カラヴァッジオの映画。

「それは、恋ではなかったか」

 カラヴァッジオの劇的な人生に、デレク・ジャーマン(以下、DJ)なりのひとつの解釈を試みた映画。
 ヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞を受賞。ですが、カラヴァッジオの故郷・イタリアということもあって、この映画に対する評価は賛否両論だったそうで。
 「カラヴァッジオを私物化している」と批判もされたそうですが、それも分かる気がします。
 そもそも「カラヴァッジオ」を題材に取ったのは、DJがゲイであるというところもあったのでしょうし、或いはDJの画家としてのアイデンティティもあったのかもしれません。

 そんな彼が題材にとったカラヴァッジオと、その作品ですが。
 彼の絵の特徴は、明暗のはっきりした、非常にドラマティックな絵であること。人物の表情が劇的で、そして聖人たちを扱った絵でありながら、その表現は現実的。有名なエピソードとしては、ルーブルに飾られてある「聖母の死」でしょうか。この絵は教会から聖母の昇天を頼まれたものですが、カラヴァッジオは河に身を投げた女の死体をモデルに描いたとされています。そのため、死んだ聖母は宗教画としてはリアルで、生々しいタッチで描かれています。(映画の中では、死んだレナをモデルにカラヴァッジオが絵を描くシーンがありますね。)結局、その絵は祭壇にそぐわないとして、教会に受け入れられることはありませんでした(彼のそのほかの作品でも、祭壇にそぐわないとして受け取りを拒否された絵があります)。しかし、彼の作品は後世の画家達に多大な影響を与えました。

 さて、映画「カラヴァッジオ」とは。
 ストーリーは、死の間際にいるカラヴァッジオの映像から始まります。そして、そんな彼の側にいるエルサレム。エルサレムは架空の人物であり、この映画のためにDJが作った狂言回しです。死の床にいるカラヴァッジオが思い出すのは、少年時代の思い出、才能を認められたときのこと、教会から頼まれた大きな絵の作成のため、モデルを探していたときであった、ヌラッチオという男のこと、そして彼の恋人レナのこと、そして自身が犯した殺人のこと。
 カラヴァッジオが殺人を犯し、ローマから逃亡したのはよく知られていることですが、原因となったヌラッチオ殺しで、それは愛のために犯された殺人であると解釈し、DJは映画「カラヴァッジオ」を作成したようです。

 ヌラッチオ、レナ、カラヴァッジオとの間で芽生える、奇妙な三角関係。
 カラヴァッジオはレナもヌラッチオも、同等に愛していたように思います。彼は二人をモデルにすることで、インスピレーションがわくのです。そしてそんな不思議な関係を眺める、エルサレムの目。
 やがてレナの美貌は枢機卿の目にとまり、彼女はヌラッチオを捨て、枢機卿の愛人となりますが、翌朝、彼女の死体が河に浮いているのが発見される。レナ殺しの容疑をかけられたヌラッチオを救うため、カラヴァッジオは奔走するも、やがてヌラッチオは驚愕の事実を口にする。「彼女を殺したのは俺だ」と。それを聞いたカラヴァッジオは、ナイフをヌラッチオに突き立てる…。



 エドワードⅡと同じく、コスチューム・プレイでありながら、現代の服装、小道具が使われている作品。しかもそれが画面にぴたりと嵌っていて、素晴らしい。また、主要な出演者たちはほとんどイギリス人ですし、堂々と英語を喋っているわけです。しかしそれを逆手にとって、「イタリア語で言うなら、こうだ!」とわざわざイタリア語で悪口を言うシーンが挟まれてあったりして、逆説的な面白さがある。
 カラヴァッジオの絵画と同じ構図のカットが何度か使われ、レナの死のシーンは「聖母の死」、カラヴァッジオ自身の死は「キリストの死」が使われ、その瞬間、その構図はとまったまま動きません。映画で「絵」を作る、或いは実際の人物を使って絵を描くとはこういうことか、といった感じ。それは下手に登場人物を動かしてストーリーを作るより、印象に残ります。
 多分、セットは全て室内で行われ、一つのシーンはずっと同じ部屋で撮られるのですが、その照明の使い方が独特。窓から光が入る、といったシーンが多いせいか、全体的に画面がちょっと茶色っぽいというか、セピア色というか。背景がほとんど茶色い土の壁なので、余計にそんな印象を与えるのかもしれません。もしかすると、これもカラヴァッジオの絵を意識しているのかな。彼の絵は、明暗が非常にはっきりした書き方なので、モデルたちを構図の通りに配置し、レフ板のようなもので強烈な光をあてて描いたのではないか、と推測されているようです。
 DJ独特の色彩感覚と、カラヴァッジオのこれまた独特な色彩感覚が混ざり合って、構図が非常に面白い。
 また、登場人物たちは、DJが史実を元に想像を膨らませて生まれた人物たちです。元々、DJは「聖マタイの殉教」の中心に描かれている半裸の「魅力的な人物」をヌラッチオとし、そこから話を膨らませていったようです。(それにしても、このヌラッチオにショーン・ビーンを配置するあたり、デレクグッジョブというような感じでしょうか。そういえば、ショーン・ビーンはこの後、「チャタレイ夫人の恋人」にも出てたんでしたっけ?森番役だったのかな?)

 しかしこの映画、DJのDJたる所以が存分に味わえる映画というか。
 彼の作る長編映画はどれも非常に「彼らしい」作品なのですが、この「カラヴァッジオ」でひとつの頂点を迎えたような気がします。
 またスタッフも、美術:クリストファー・ホッブス、衣装:サンディ・パウエル、音楽:サイモン・フィッシャー・ターナー、そして彼のミューズ、ティルダ・スウィントン(その他、ナイジェル・テリー、ショーン・ビーンも、かな)という、チームデレク・ジャーマンが結成され(クリストファー・ホッブスはジュビリーから参加)、以後、「ラスト・オブ・イングランド」、「エドワードⅡ」、「ヴィトゲンシュタイン」等等、彼らが顔をそろえることが多くなります。



 DJ作品を初めて見るなら、とりあえずはこちらがオススメ。
 是非ご覧下さい。




 蛇足ですが。
 カラヴァッジオの「聖マタイの召命」が飾ってあるサン・ルイジ・ディ・フランチェージ教会の横に、小さな本屋さんがありまして。
 観光客目当てなのかなんなのか、カラヴァッジオ絵画集が結構たくさん置かれていたのですが(カラヴァッジオのほかにも、イタリアの代表的な画家の画集がありました)、その中の一つに、巻末にこの映画のことが紹介されていているものがあって、ちょっと嬉しかったり。画集自体はイタリア語で書かれていましたが、即買ってしまった(苦笑)。
 それとサン・ルイジ・ディ・フランチェージ教会にある「聖マタイの召命」は、絵の側にある機械にお金を入れると照明がつくようになっているのですが(教会の中は薄暗い)、私がぽんぽんお金を入れるもんだから、私の後ろに他の観光客がたくさんいました…。今となっては、旅のいい思い出です(苦笑)。
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by azuki-m | 2006-05-28 01:36 | ■映画感想文index
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