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インサイド



「ブロークン・フラワーズ」

「ブロークン・フラワーズ」_f0033713_19494359.jpg監督:ジム・ジャームッシュ
脚本:ジム・ジャームッシュ
出演: ビル・マーレイ 、ジェフリー・ライト 、シャロン・ストーン 、フランセス・コンロイ 、ジェシカ・ラング、ティルダ・スウィントン

 こちらも家族を探す男の物語。
 まだ見ぬ息子とその母親を求め、昔付き合っていた女性達を訪れる元ドン・ファンについて。

 この映画のあらすじが、「アメリカ、家族のいる風景」と重なって、私の中でごちゃごちゃになって困った時期がありました(苦笑)。
 似たような題材を取り扱っても、ヴィム・ヴェンダースはサム・シェパードを起用してシリアスな映画に、ジム・ジャームッシュはビル・マーレイを起用してコミカルな映画に。このあたり、二人の色の違いがはっきり出てますよね。
 ま、そんな事は置いておいて。

乱暴に要約したストーリー:
コンピューターで大成功した大金持ち、ドン・ジョンスンは女性関係が盛んでも孤独な元ドン・ファン。しかし付き合っていた女性に家を出て行かれた日、彼にピンクの手紙が届く。謎めいたピンクの紙には、「自称20年前に付き合っていた女性」から、「あなたには19歳になる息子がいる。そして彼は父親を探しに旅に出た」との衝撃の事実が。その手紙を見て喜ぶ、お節介な隣人ウィンストン。「よかったな、父親になれて」。彼はドンにその母親を探しに行く事を提案するが。



 今回の場合は、母親ではなくお節介な隣人・ウィンストンが主人公を導いていきます。
 しかし、この隣人とのやり取りが、本当に面白い(笑)。
 静まり返った(高そうな)家の横で、たくさんの子供が庭で遊ぶ、賑やかな家。(それにしても、いったい何人の子供がいたんだろ:汗)
 探偵小説が大好きなウィンストンの推理が冴えます(笑)。ドンに「女たちのリストを作れ」だの、いろいろ指示を出すのですが、口では嫌がりながらも結局最後は従ってしまうドンが可愛い(笑)。このあたり、多分、ドンも何だかんだと言いながら、期待していたのかもしれませんね。彼女にも去られ、ずっと一人だと思っていた自分に、突然「息子」という存在が生まれる。戸惑いながらも、その存在を本当は嬉しく思っていたのかもしれません。そして最終的に、ウィンストンは「息子の母親探しツアー」(飛行機、ホテルからレンタカーまで手配)を作ってしまい、旅行代理店が作るようなスケジュール表一式と彼オススメのCDをドンに渡す。それも、嫌がりながら、結局は旅行に出かけてしまうドン。 
 なんだかハメられたような気分のまま、過去の女性達の元を尋ねるドン。女性達の住所を全部覚えてたっていうのがすごい。このあたり、本物のドン・ファンですね。単に遊んでいるわけではなく、その相手には常に本気だという(笑)。でもきっと、いつもフラれる方なんでしょうね。

 女性達の反応もそれぞれです。夫に死なれ、少し寂しい生活を送っていた女性からは歓迎されますが、今の生活に満足している女性からは戸惑いしか返ってこない。独立し、昔とは別の道に進んでいる女性からは少し邪険に扱われ、孤独な生活を送るワイルドな女性からは怒鳴られ、彼女の取り巻き(?)に殴られてしまう。昔の恋人がいきなり尋ねてきて、温かい反応を返してくれる女性はあんまりいないと思います。その思い出がすごくよかったなら別として。
 (にしても、女性達を訪ねる間間は結構ダラけてしまい、退屈している観客も多かったように思うのですが、それも次の女性への期待を高めてくれるものだと思えば。)
 ですが、最終的に、特に大きな成果もなく、彼の「家族を探す」旅は終わってしまう。

 結局、謎は謎のまま、映画は幕を閉じます。
 最後に、「彼の息子」と思しき青年は出てくるものの、それも本当に彼の息子かどうか分からない。なにせ、ジャームッシュ自身も彼がドンの息子かどうかは分からないそうですから(笑)
 少し唐突な、皮肉めいた結末(非常に現実的…)でありながら、何かを期待させる結末でもある。ただのコメディで終わらせないところが憎い…。
 観客は、ウィンストンと同じく、推理する楽しみを与えてもらっているのですよね。

 私としては、あの青年は彼の息子だといいかな、なんて(笑)
 だってジャージだし。ピンクのリボンだし。(あの怪しいピンクの手紙が、悪戯じゃないかどうかも分からないんですけどね。)母親としては、2番目の、裕福そうな女性・ドーラでしょうか。
あの家庭なら、「繊細で想像力に富んだ」息子が育ってもおかしくなさそう。


 ストーリーの都合上、画面には様々なピンクが映るのですが、そのたび、画面が華やかでコミカルになります。それにしても、女性達には常に違ったピンクの花を持っていくドンは偉いな(笑)。しかも、その女性によく似合ってる。最後の女性・ペニーにはその辺に生えていた野生の花をむしって持っていくってのが笑えますが。

 それにしても、ティルダ…。いつもいつも、印象の違う役をしてくれるのですが、こんなパンキッシュな役(最後の女性・ペニー役で出演)だとは。今までで一番ワイルドですね。…でもちょっと、出番が少ないよー(泣)。女性達の中で、一番時間が短いじゃないですか(泣)。

 ビル・マーレイの演技はすごい。トボケた感じのポーカーフェイスは本当に見事。ただ椅子に座ってるだけなのに、なんでこんなに面白いんだろう(笑)。二番目の女性・ドーラの家で、彼女の夫と一緒に食事をしているシーンには結構笑えました。
 女優たちも超豪華。そして全く違う個性の女優さん達の共演は非常に面白かった。ドンの女性の好みの広さが分かります(笑)。
 そして、一番最初の女性・ローラの娘がロリータって…(笑)。この娘さん、なぜか脱ぎ癖があるらしく、ドンがいてもお構いなく、素っ裸です。しかも耳元にはおっきなハート型のピアスが揺れています。しかもアイス好き。…「ロリータ」か…(笑)

 あと、ドンの家はなんだか薄暗く、押さえた色調なのですが、ウィンストンや女性達の家の様子と比較してみると中々面白い。ローラの家は母子家庭の力強さと猥雑さがあるし、ドーラの家は白とピンクだけで、まるでモデルハウスみたいな清潔さで、ちょっと無味乾燥。カルメンは仕事場なので、ヒーリングクリニック?のリラックスムード。しかし、ペニーに至っては室内が映されることなく、壊れかけた家の正面と、ゴミの散乱する庭だけ。それぞれの個性が出てて面白いなぁ、と思います。


 見ている間、映画館には笑い声が飛び交い、かなり和やかな感じでした。
 観客はほぼ日本人だったんですけどね。お客さんの反応がすごくよかった。
 かなりコミカルで面白い映画。最後にちょっとした寂しさはあるけれども、大人っぽい、お洒落な映画です。
 ものすごくオススメ。
 どんな人でもそれなりに楽しめると思います。
by azuki-m | 2006-05-07 19:55 | ■映画感想文index
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「私は、断固たる楽天主義者なのです」

by azuki-m