インサイド



「クラッシュ」

f0033713_23144225.jpg監督:ポール・ハギス
脚本:ポール・ハギス、ボビー・モレスコ
出演:ドン・チードル、マット・ディロン、ジェニファー・エスポジート、ウィリアム・フィクトナー

今年度アカデミー作品賞受賞作品。

 今更ですが、この映画の感想文なんかを。結構前に見たんですが(汗)。
 公開場所を広げるようなので、書いてみました。
 ロスの2日間に、同じ時間、異なった場所で、異なった人々が繰り広げる群像劇。
 登場するのは刑事たち、自動車強盗、地方検事とその妻、TVディレクター、鍵屋とその娘、雑貨屋の主人とその家族…など。

「みんな触れ合いたがってるんだ」

 確かこんな感じだったと思うのですが、そんな台詞から始まるこの映画。
 ロスアンジェルスという特殊な街で、人々は触れ合うことを忘れ、けれどどこかで繋がっていく。この映画の中では、そこに登場する彼らが係わり合い、触れ合い、「クラッシュ」するのは車が発端となっています。
 
 自動車を奪って売りさばくことで、日々の暮らしの糧を得る者、その自動車を奪われることで不安定になり、他者にヒステリックになる地方検事の妻、そんな妻を持て余す夫、自動車の中での悪戯がきっかけで、差別主義の警官に見つかり、屈辱的な扱いを受ける黒人のTVディレクター夫妻、そして自動車の事故がきっかけで、その差別主義の警官に助けられる妻。たまたま奪った自動車に、大量の密入国者が入っていて、彼らを解放してしまう自動車強盗、一方、ヒッチハイクをした自動車強盗の片割れと、彼を乗せた警官。
 それぞれの人種、さまざまな人々が混ざり合い、人々はそれぞれに不安を抱えて生きていく。
 群像劇の常として、そこにいるのは誰もが主役。絶対の善人もいなければ、絶対の悪人もいない。よかれと思ってしたことが、裏目に出てしまうこともある。或いはその逆であることも。
 「天使を見た」と泣くアラブ人の男性と、「おまえが悪いんだ。あの子を早く連れ戻してくれないから」と泣く、黒人警官の母親が印象的でした。どちらも悲嘆にくれながら、前者は希望を見出し、後者はその希望を絶たれてしまう。
 そして、最後に愛を確認するTVディレクター夫妻、子供を亡くさずに済んだ鍵屋の男、早とちりで人を殺してしまった若い警官。若い警官の、なんともいえない、絶望的な表情。誰もが、ちょっとしたきっかけで、自分の物語を喜劇にも悲劇にもしてしまう。


 さて。
 全体として、うまくできた映画だと思います。
 ただ、あまりに綺麗に収まりすぎているところが、私の気にいるところではなかったかな、と思います。群像劇の魅力は、そこに出てくる人々の感情のぶつかり合い、重なり合い、そしてそこから生まれてきたり、逆に何も生み出さない何かです。この映画は、非常によくできた脚本ではあるのですが、逆に言えば、あまりによく「できすぎている」。綺麗に整頓・合理化されすぎていて、次に何が来るのか、多少予想できてしまう。つまり、なんというか、人同士がクラッシュをしたとしても、人物の配置の仕方や設定などから、彼らの演じる役割が読めてしまい、クラッシュの結果が分かってしまうのですよね。
 どこにでもいるような、普通の人々が主役なので、しょうがないのかもしれません。また、この映画が人種問題を扱った社会派映画なので、単純にストーリーを楽しむ作品ではないということがあるのかもしれませんが…。
 前にも書いたと思うのですが、本当にいい映画です。いい映画なんだけどな。ただ、幸運にも人種差別を経験したことのない私には、想像はできても、いまひとつ感情移入できない映画ではありました。泣けるエピソードも結構あるんですが…。
 結局、私にとって、この映画のように綺麗に整理された映画は、それが何を描いているか、何を主題としているか、そのテーマに私自身が感情移入できるか、楽しめるか否かというところなのでしょうね。
 ま、そんな事は置いておいて。

 なんか上でケチをつけていますが、(ちょっと都合のいい展開があったりはしますが)脚本はやはりすごいのです。
 群像劇の魅力のひとつに、彼らの台詞があると思うのですが、この脚本も彼らの台詞一つ一つが素晴らしく、ずしっと重いです。こちらも名言集ができそう。
 そして、異なった人々、場面をうまく繋げた編集技術。ロスの二日間を追い、それぞれの人々がどこで何をしているのかを行く。どこかで泣いている人もいれば、どこかで笑っている人もいる。どこかで生きる人もいれば、どこかで殺される人もいる。そのギャップがなんだか残酷で、リアルでした。
 役者陣も奮闘しています。抑えた演技の中にも、彼らの内に見え隠れするどす黒い感情、そしてそれの突然の発露といった場面を、綺麗に演じていました。個人的には、マット・ディロンが気になりました。多分、彼が出ている作品を見るのはこれが初めてなのかな。

 人種差別、そしてアメリカの抱える問題について。
 ニュース等で「この映画はアメリカが抱える問題そのものだ」ってな言い方をしているのを聞いたのですが、そうなのでしょうか?アメリカだけに限定できる物語なのでしょうか?
 なんにしても、非常に興味深く、映画が持つテーマについて考えさせられる作品。
 前にも言いましたが(3月7日付けブログにて)、「ブロークバック・マウンテン」ではなく、この作品が作品賞を取ったのも頷けます。
 一度ご覧下さい。
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by azuki-m | 2006-04-09 23:20 | ■映画感想文index
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