インサイド



「隠された記憶」

f0033713_224594.jpg監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:ダニエル・オートゥイユ、ジュリエット・ビノシュ、アニー・ジラルド

 ようやく書けた、フランス映画祭出品作品。
 ミヒャエル・ハネケ監督作品なので、ものすごく期待していきました。平日にも関わらず、ほぼ満員。「フランス映画」の響きの威力か、それとも「ミヒャエル・ハネケ」の威力か。それでも、映画初心者っぽい人の姿も結構あって、かなり驚きました。
 しかし…いったい、どう解釈すればいい映画なのか(笑)


乱暴に要約したストーリー:
何不自由なく暮らす家族の元に、ある日一本のビデオテープと、まるで子供が描いたような、血を吐く子供の絵が送られてくる。ビデオテープには、彼らの家の風景が映っていた。そんなビデオに不安を覚える夫ジョルジュ(ダニエル・オートゥイユ)と妻アン(ジュリエット・ビノシュ)。しかし、警察に届けても、彼らは「事件が起きなければ動けない」と相手にしてくれない。次第にビデオの内容は自宅の映像だけでなく、ジョルジュの実家の映像や、犯人が住むと思われる、見知らぬ住宅の映像へと、どんどんエスカレートしていく。なぜ、誰がこんなビデオを作り、自分達に送りつけてくるのか?不安を募らせる夫婦。ジョルジュの頭に、かつて自分の家で働いていた、アルジェリア人の少年の顔が過ぎる。彼と、ジョルジュの間に何があったのか?ジョルジュはその男の元へと出向くが…。


 観客を置き去りにして、ずんずん突き進む映画ではないので、わりとのんびり見れる映画というか、想像する余裕を与えてくれる映画。しかし、なんだかこれもハネケの策略に乗ってしまっている気がする(笑)
 映画だけでなく、なんでもそうですが、ある程度想像の余地を残しておいてくれる(それが意味不明であったり、難解であったりする映画もこれに含む)場合、観客はあれこれと想像を膨らませ、勝手に理論付けし、自分なりの回答を導き出し、そして勝手に納得する。こうさせてしまえば、それはその観客にとって、「とてもいい映画」なんじゃないかな、と思います。
 彼が批評家に人気があるのも分かる気がします。
 ハネケはカンヌグランプリや各映画祭監督賞は取れても、パルムドールを取るような映画は作らないんだろうなぁ。……ハネケのパルムドール…見たいような、見たくないような(汗)
 ま、そんなことは置いておいて。


 最初のシーンは、何の変哲もない、住宅街の映像から始まります。その映像がじっと動かない。「…なんだこりゃ??」と緊張しだした頃、キャストの名前やらが、どの映像の上にずらずらと並べられていきます。(にしても字がちっちゃい:汗)

 主人公のジョルジュは、ビデオテープに導かれ、かつて自分の家で働き、養子として迎えられたものの、施設へと出されたアルジェリア人の男(…すみません、名前が思い出せない:汗)の古びたアパートへと辿り着きます。彼はジョルジュを懐かしげに迎えますが、ジョルジュのほうは「何故こんなことをする。俺を脅迫しているのか」の一点張り。男は「自分は何もしていない」と言いますが、ジョルジュは聞く耳を持ちません。
 あらん限りの暴言を投げつけた後、彼は帰りますが、その映像も、なぜかビデオに撮られて家に送りつけられているのです。
 妻の夫への不審は最高潮に達し、彼女はこの男と何があったのかを問い詰めますが、夫の口から出てきたのは、「昔、家で働いていたアルジェリア人の少年で、両親が気に入って養子に迎えた。だが、自分は彼が嫌いだったので、彼の行動が自分を怖がらせると両親に嘘をつき(夜中に血を吐く、鶏を殺した、など)、彼を施設に送ってもらった」というのです。
 
 つまりは、彼の(子供じみた、けれど大きな悪意)嘘が、彼の一生を台無しにしたというわけです。しかし、彼はそれを「子供がしたこと」と片付けてしまう。自分が何をやったか、わかろうともしないし、認めようともしない。
 それどころか、自分の疚しさゆえに、嘘をつき続け、過去を暴露した(と思い込んでいる)相手に向かって罵詈雑言を投げかける。勝手な男です。ですが、そのアルジェリア人に向ける猜疑心は、ちょっと異常なくらいです。既に忘れていた過去を思い出させた事に対する拒否感か、恐怖なのかもしれません。この後、彼の息子ピエロが行方不明(結局は次の日、無事に帰ってくるんだけど)になるシーンがあるのですが、ここでも彼はそのアルジェリア人がやったと主張し、警察を呼びます。踏み込んだ警察は、彼とその息子をまるっきり犯人扱い(テレビの人気キャスターと、裕福とはいえないアルジェリア人家族の言い分を、警察がどう秤にかけたかって感じですな…)。人権もへったくれもありません。
 やがて警察は彼らを釈放しますが、ジョルジュによって人生を台無しにされた男は、彼の目の前で、抗議と身の潔白の証明のために、自分の喉を掻っ切る。ジョルジュはまた、彼に対し過ちを犯してしまうわけです。しかしそれでも、ジョルジュは自分の過ちには気がつかないし、その過ちを隠そうとする。
  ですが、結局、事件はすぐに過去のものとなり、家族は元の生活に戻っていく。最後、ジョルジュの夢の中で、あのアルジェリア人の男の子に何をしたのかがぼんやりと見えてくるのですが、ものすごく曖昧で、これがジョルジュが彼について思い出せることの限界なのかな、とも。


 結局、ビデオを送りつけたのが誰なのか、ピエロに何があったのか、…そんな回答部分は、全くありません。息子が突然、母親に対して冷たい態度をとったことからも、母親と別の男が親しげにしている(その前に、彼女が親友の男性に慰められているシーンがあります)を、見たんじゃなかろうか、と思います。これももしかすると、ビデオに撮られて、ピエロはそれを見たのかも。だけど、どこまでも想像の枠を出ないんですよね。

 そして、最後のシーンをどう解釈すべきか。
 「衝撃のラストカット」、とパンフレットなんかに書いてあるのですが…。学校の玄関のシーンがワンカットで延々と流れているだけ。しかしその中で、ピエロと彼の友人か、黒人の少年が一緒にどこかへ行く映像があったような…?でもあまりにさらっとしていて、それがピエロかどうかもよく分からない。ただ、これがどんな意味を持つのか。それとも、全く意味がないのか。どちらにもとれて、見終わった後、頭が疑問でイッパイになり、勝手な回答を探している自分がいます(苦笑)。…あー…この映画を難しくしているのは自分なのかも。「ヴィトゲンシュタイン」じゃありませんが、「澄んだ水を濁らしている」のは観客ですな(苦笑)

 全体として、ビデオテープに録画された映像と、主人公たちの視線が入り混じり、緊張感のある映像になっています。主人公の視線だと思っていたのが、実はビデオの映像だったり、その逆だったり。また突如として、ジョルジュの記憶だと思われる、アルジェリア人の男の子の映像が挟まれたり。見る者と見られる者、私達観客を含め、主人公やビデオや、この映画のカメラワークとしての視線(ハネケの視線)が入り混じって、「これは誰の視線なんだ??」とちょっと混乱させられます。

 すごいな、と思ったのが、エンドロールが終わるまで、観客が全く出て行かなかったこと。(前の席だったので、後ろではもしかしたら出てく人がいたのかもしれないけど)。そして、映画館を出て行くときも、みんな無言(笑)。少なくとも、私の周囲には、感想らしきものを言う人がいなかった。

 日本での公開はGWになるのでしょうか。
 面白い映画です。見た後も、「…いったい、なんだったんだ?」と混乱させられ、長く余韻の残る映画。
 是非見て下さい。


蛇足ですが。
ビデオといっしょに送られてくる絵が、なんだか可愛いです…(汗)。血を吐く少年の絵とか、首を切られた鶏の絵なんだけど。気持ち悪いはずなんだけど。…なんか可愛い(大汗)。
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by azuki-m | 2006-03-27 02:26 | ■映画感想文index
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